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目を見開く女。
先を急いでいた女は足を止めて俺を真っ直ぐキョトンとした顔で見詰めた。
そうして一瞬で逸らされた瞳からは、彼女の何も窺い知ることは出来ない。
可愛い顔してるな、それが第一印象。
この子が同じクラスの子だとわかったのはそれから一拍ほどした後だった。
真面目だと聞いていた彼女は、一言も言葉を発することなく、俺を通り過ぎようと足を動かした。
「待てよ」
そのまま通り過ぎようとする蓮見のその腕を掴めば案外細くて、力を入れたら折れるんじゃないかと柄にもなく思ったり。
「何ですか?」
不機嫌そうに問い掛けらるその声は高くもなく低くもなく、真っ直ぐ俺の耳に入って鼓膜を揺らす。
そんな蓮見の声を聞きながら俺はゆっくりと口を開いた。
いかにも本気で、真っ直ぐで、真面目であるかのように。
「俺と、付き合って欲しいんだけど」
「それ、本気なんですか?」
訝しげに眉を寄せて俺を見上げる蓮見の顔を真剣な瞳で見つめ返して
「あぁ、もちろん」
俺の口はすんなり嘘の言葉をはいた。
「私が、好き?」
あぁ、きっとこの女も他の女と同じ、もう少ししたら喜んで俺に笑顔を向けるんだろう。
見た目、と金持ち、に騙されて。
「あぁ、好きだ」
また思ってもいないことを口にして、ただひたすら真剣な表情で答えを待った。
「あなたが、私を、好き?
私が、あなたと、付き合う?
到底理解出来ません」
そして俺は今の状況にいるわけだ。
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