伝言

2/2
前へ
/44ページ
次へ
これは、随分前に見かけた婦人にまつわる話しです。 私は、いつもの様に、道路沿いに面した家の前を通過しました。 その家は、広い庭があり奥に屋敷が建っていました。 なぜか、その時に家の方へ目をやりました。 庭に面した、廊下の柱にもたれる様に婦人が立っていました。 その婦人は、大きめの花柄のブラウスを着ていました。 とても美しく上品に微笑んで見えました。 丁度その頃の庭には、つつじが綺麗に咲いていました。 私は、婦人がとても庭を気に入っているのがわかりました。 そしていつか、機会があったら、その家の人に伝えてあげよう、と思っていました。 それから数年後、縁あってその家の若奥さんと友達になりました。 ある日、お宅へお邪魔して驚きました。 婦人の遺影の服が、花柄だったのです。 私は、婦人を思い出し話しました。 若奥さんは、とても驚いていました。 『この庭は、義理のお母さんが手入れして造ったの』と話してくれました。 私は、やっと伝える事が出来て良かったと思いました。 後日談ですが、丁度その時に新しく家を建てるのに、土地を離れるかどうか迷っていたと言ってました。 毎年、庭師をいれて綺麗に手入れしながら、今でもそのまま暮らしています。 きっと婦人も喜んでくれていると信じてます。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加