雨音

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 12年前、祖母の家を含んだ村はなくなってしまった。  深刻な過疎化の問題によるものだった。  祖母は最後まで残ろうとしたらしいが、結局父の家に身を寄せることになった。  去年の夏、私は一人旅の途中、その村があった場所へとおぼろげな記憶を頼りに訪ねてみた。  そこには雑草や潅木の生い茂る中、瓦礫や支柱の跡があるばかりで、あたり一面に家らしきものは何もなかった。  帰りに父の家に寄り、祖母にそのことを話すと「そうかい、そうかい」と答えるばかりで、ほかには何も言わなかった。  最近は俺の顔も忘れるようになったと、父親がため息をつく。  私は、小さい置物のような祖母を前にして、見てきた風景を、事細かに、いつ果てるともなく話し続けた。  祖父がふいたという赤銅色のトタン屋根は、もうどこにもみあたらない。  あの、青空と夕日によく映えたトタン屋根。  そして…その場所にあった祖母の姿はもう二度と見れない。  私は急に寒気を覚え、布団をかぶり直して眼を閉じた。  鈍い痛みが深い場所で疼く。  もう昔のようには感じられない。  酔った体が闇の中へと沈みこんでいく。
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