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記憶の不思議について
きっかけは五月晴れの日曜の昼下がり、私は中学二年生だった。
昼食を終えた私はうたた寝をしつつ、バルコニーから続く窓外の穏やかな景色に見とれていた。
明かりを消した暗い室内からのぞむ、サッシに切り取られたスナップ写真のような風景。
青空を悠然と進む雲と地上におちた雲影、青々とした山並みや山裾に点在する家屋は印象派の絵画めいて見える。
この牧歌的な情景を見て、十四歳の私は奇妙な感想を抱いた。
それは『ああ、死の風景だ』という思いだった。
私自身も不思議だったのだが、その感覚は確固として揺るぎないものだったのだで記憶に深く刻みこまれた。
あれから二十四年後の現在、私は部屋でうたた寝をしていたのだが、死の風景だと感じた原因が私の原体験にあることに気がついた。
それは私の持つ最も古い断片的な三つの記憶につながっていた。
最初は額に傷を受けて泣き出す赤ん坊の私。次に私を膝にのせて抱き締めながら号泣する母親。最後に大声で泣いている母親に驚いて泣きやむ私…この三つだ。
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