アイム・イン・ヘブン

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 何か大きな物音に目を覚まされた。  どうせまた、いつもの交通事故や近所での工事だろうと思い、さして気にはとめなかった。  ぼけた頭でまわりを見回すと、夜明け前なのかまだ薄暗い。  そろそろジョギングに行くかと思い身を起こすと、ふいに裸になっている自分に気がついた。  驚いて立ち上がって見てみると、どうも私の部屋ではなく、まわりは粘液質の壁にとり囲まれていた。ただ、目の前の方向に出口と思われる狭い通路が続いている。 『ここはどこだ』  あせって一歩踏み出すと、足の裏に何か柔らかい物の感触が伝わってきた。目を凝らしてみると、どうやら人間のようであった。一体ではない。まわりを見回すと、上下左右、壁と思われた所には、幾人もの人間が雑然と埋めこまれている。  硬質なゼリーのようなものに囲まれ、彼らはまるで胎児のような姿勢で膝をかかえていた。  私は恐る恐る、その中の一体を覗き見た。  半透明の皮膜越しに、虚ろな顔がぼんやりと見えてくる。頭髪は無く、ただ気味が悪いほどに肌が白い。 『この顔は!』  私はあわてて、その場所から飛びのいた。青白い虚ろな顔は、間違いなく私のものだったのだ。しかもその一体だけではなく、まわりにいる人間すべてが私と同じ顔をしている。  私は足裏の不気味な感触を無視して逃げだした。  目の前の狭苦しい通路は、悪夢の迷路のようにどこまでも続いている。  心音が、恐ろしいスピードで高まっていく。  たとえようもない恐怖が私の体を貫いていた。  どれくらい走っただろう、気づいてみると、トンネルのような場所にでてきてしまった。  私は息苦しさに負け、その場に倒れこんでしまう。  まわりは何か肉壁のようなもので囲まれていて、まるで他人の胃袋の中へ入り込んだような気分にさせられた。  ここはどこなんだ?どうして私は裸なんだ?そして私の顔をした彼らはいったい…?  ただ、疑問符ばかりが私の頭の中を駆けめぐっていた。いやな汗がとめどもなく溢れ出す。  背後で震動音が聞こえてきた。  体が震えている。  半分腰を浮かせその方向を見ると、何かがトンネルいっぱいに広がり、こちらの方へと物凄い速度でせまってきている。
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