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見事な満月が眩しい夜のことだった。
街で一番高い時計台の屋根に二つの陰が、風になびく漆黒のマントにフードを深く被り、満月の光の中で変に浮き出ていた。それでいて誰も気付かないのは二人が気配を消しているせいで、意識してみないと見つけられなかった。
二人が眺めていたのは湖の反対側、今なお戦火の真っ直中にある戦場だ。
「男爵、アナタは本当に何もしないおつもりですか?」
「戯け、私はウォッチャーだ。最後まで観察者であり続けるつもりだ」
影は何かを話していた。片方は楽しそうにしているのに対して、もう片方は見下したような言い方で返事をする。
その物言いは偉そうな言い方ではあったが、それに似合う威厳が介在していて、成り上がりではない生まれもっての誇りや気高さを感じる。
男爵と呼ばれるのも納得のいく者だった。
「貴様は参加したいのか?得る物の無い戦いに」
「だって楽しそうじゃないですか、オーク狩り」
男爵の問いに、まるで子供のように返事をする片割れは異様なほどに好戦的で、命のやり取りをゲーム感覚で語った。男爵が気を悪くしたのは言うまでもなく、鼻で嘲笑うと片割れに背を向けた。
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