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「好きにすると良い、貴様が奴等と同じ所まで堕ちるだけだからな」
「意義無き殺生、己が身を堕とす。ですか?」
「うむ、私は身に染みてその意味を知っている。貴様は知らぬでも良いようなことなのだがな、どうしても知りたいのなら行くがいい…」
背を向けたままの会話は二人の力関係をより見やすくしたようなモノだった。見てくれこそ変わらないが、男爵は数段高い所にいた。
多くの知識を多くの経験で得ている先人からの忠告は、経験の浅い青二才を戒め道を踏み外すのを止めるのに十分すぎるモノだったようだ。
「もし、男爵が本当に"意義無き殺生"をしていたら…?」
「友を…、最愛の人を失っていただろうな…。貴様の知らんで良いような苦しみだ」
「…………最愛の人ってやっぱり!」
返答に違和感を感じて、歩き去ろうとする影を振り向くと、そこにはさっきまで居たはずの影が忽然と姿を消していた。
姿を消したと言うよりは姿を変えたと言った方が正しい。だが、彼には姿を変えた男爵を見つけることは出来なかった。
「逃げられた…」
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