プロローグ

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 カランカラン・・・。  町の中心からしばし離れた住宅街に寂しげに開かれている喫茶店があった。建物の大きさに比べて思いのほか広い敷地に木が立ち並び、店舗の姿を見難くしているが、きちんと喫茶店は存在していた。  滅多に開かれない店の扉が開き、来客を知らせるベルが二度三度鳴って、誰も居ないガランとした店内に一人の少女が入ってきた。  時が止まったような、外界と隔絶した雰囲気すら湛えている店内に不釣合いな少女の見てくれは、ちょうど中学生と高校生の間くらいで、ありきたりな制服に学生鞄を提げ、微かに注ぐ斜光に煌く腰まで伸びた栗色の髪を揺らしながら、カウンターまで歩いて行く。  そんな少女の姿を、まるで孫でも見るような暖かい視線で見つめている喫茶店のマスターは白髪の混じった髭をたたえ、口元にありきたりなパイプを銜えている。彼はカップを磨く手を止めて、それを置くと慣れた手つきでガラス製のコーヒーメーカーを用意し始めた。  カウンター席に少女が座るとマスターは柔らかい笑みを浮かべ、不思議なことを言い出した。 「珍しいですねぇ、一度に二人もお客さんが居るなんて」 .
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