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人影の無くなったベランダで、黒い体を冷たい石造りの手すりに預けて、ジンワリと染みてくる夜の爽涼がパッと目を冴えさせた。
しばらくジッとしていると、ベランダに誰かが出てくる気配がして、ガラス張りの出入り口に目をやる。すると、そこには見たことのない少女が立っていた。
こちらを眺めている少女は見た感じユーディリアより二三歳年下くらいで、ちょうど15歳くらい。短く切られた藍色の髪に整った顔、スラッとした四肢に出る所と引っ込むところ、一つ一つのパーツが洗練された人形のように整っていた。
黙ったまま動かない少女を放っておいて、頂上を越えたばかりの月に視線を戻した。
「そこ、そんなに座り心地が良いの?」
突然、話しかけたのは少女の方だった。
あっけらかんとした顔で手すりに歩み寄ると、自分と大きさの変わらない黒い動物に話しかけたのだ。
怖くなかったと言えば嘘になるが、それ以上に好奇心の方が強かった。
だが、黒いそれは見向きもせず、うんともすんとも言わず、ただ月を眺めていた。その姿は神に仕える聖獣のような幻想すら抱かせた。
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