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あうあうと口をパクつかせていると、黒猫が煌めく両眼を怪しく細めて少女を見据える。
その目に窮屈にドギマギしている少女を後目に、黒猫はマスターに出されたティーカップに溜まったミルクを幾度か飲み、一息か二息つくと、二つの目がまた少女に向けられた。
呆れに近い、見下した様子のその目は普通の人が見れば良い気分のしない、むしろ嫌悪や気持ち悪さを感じてしまいそうな、怪しさや猫らしからぬ底無しの力強さが宿っていた。
普通でないと言うより純粋無垢と言った方が正しいのか、単に少女が鈍感なのか、少女の透き通るアイスブルーの瞳には好奇心のような輝きがあった。
そんな少女に気を良くしたのか、黒猫は少女に向き直ると、眼力をさらに強くして、恭しく威厳高く話し始めた。
「小娘」
「はいっ」
「名を何という?」
「えっ、あっ、神薙 渚でしッ」
緊張からか、それとも黒猫の双眼に湛えられた威圧感のような何かに気圧されてか、渚は舌足らずに噛んでしまった。
彼女が焦ったのは言うまでもなく、まるで貴族に粗相を働いてしまった侍女のように、ぎゅっと口元を結び、唇を噛んだ。
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