プロローグ

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 やがて俯き、恥ずかしさで耳まで真っ赤にして、長い栗色の髪がサラサラと顔を隠し黒猫から見えなくなった。  俯く渚にスルスルと二歩三歩近付く、前足を巧みに使って栗色の髪を暖簾のように退けると、真っ赤に鳴った少女に微笑みを向けた。 「小娘、恥ずかしがることではあるまい。孤高の詩人とて韻を違えることもあれば、賛美の歌手すら音階を違える、人は違える生き物なのだ、恥じることはない」  どうやったのか、渚の長い髪を耳に掛け、露わになった赤く火照った頬に黒猫の冷たく柔らかいニキュウを押し当てて、フニフニとしている。  ニキュウの冷たさがじんわりと染みてくると、不思議と紅潮と火照りが引いていった。 「あの…」 「私の名は"ロンバルディア・アース・パルテノン"。誰が名付けたかは知らないが、他人は私を"男爵"と呼ぶ。好きなように呼ぶと良い」  火照りが引いたのを確認すると、ニキュウを離してティーカップのミルクに口を付け飲み始めた。  黒猫のなんと立派な事だろうか、整然と凛々しくそう名乗った猫には後光すら見える気がする。彼は少女の目から見ても男爵たるに足る何かを十二分に持っていた。 .
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