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単に偉そうなのではなく、憐れみや同情でもない、遙か高みにいながら少女と同じ視線になることも出来れば、かと言って彼自身が高みから降りてきているわけでもない。
ただ、何かがあるのだ言葉には表すことの出来ない、例えば彼の発する言葉、例えば彼のする行い、例えば彼に見え隠れする天性の気品、その全てが彼を爵位を得る者としているのだ。
「渚といったか?良い名をしているな」
不意に語りかけられた言葉に思考が一瞬止まった。
優しさの感じられる声に振り向くと、男爵は屋根を眺めていた。時間が止まったように静かな店内に、微かに注ぐ斜光が男爵を照らし出しその艶やかな毛を輝かせている。
自分が不思議な世界に来てしまったのではないか、と錯覚してしまうほど、その光景は幻想的だった。
「渚、君はその名の意味を知っているかい?」
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