第一章

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   嘔吐しつつ、その苦しさから奇しくもサンタはこれが夢でないことを悟るに至った。  最悪な気分だ。水を飲むにも目を瞑らないと飲めない状態だった。コップに注いだ水にすら、糸が揺らめいているのだから。  いったい何が原因なのか。そう考えたとき、サンタの頭に真っ先に浮かんだのは夕方に出会った女の子の姿だった。  どんな作用でこんな風になったのかわからないが、催眠術の一種かもしれない。これが妹の言うとおり、ただの妄想なのだとしたら、かなり危険な兆候だ。 「何だってんだよ……」  寝れば治るかもしれない……そんな淡い期待をしながら再びベッドに身を沈める。  明日、いや今日が土曜日だから、授業が始まるまで二日ある。まさか始業式の日からこんな目に遭うとは思ってもいなかったが、月曜日までには治さないととてもじゃないが生活出来ないだろう。 (いざとなったら、初日から欠席か……)  目を瞑れば何も見ずに済む。まさか夢の中にまで現れるなよ、と願いつつサンタは夢の入り口を探し始めた。  そうしてさまようこと三時間半。未だサンタは眠りの淵さえ探せずにいた。  変な時間に目覚めてしまったのだから、仕方のないことだった。   ぼーっとする頭で、瞼を開く。一見何も変わらない天井だが、視界の隅にはしっかりと糸が映っていた。  無機物から伸びる糸が少なくてほっとする。もし、有機物──ましてやサンタと同じくらい多数、それも複雑に糸が伸びていたら、視界が糸で埋め尽くされているところだ。 (いや、案外その方がいいのかもな)  何も見えない方がまだ諦めがつく。ある程度生活出来るから、余計に腹がたつのだ。  ふいにドアが開いた。何かと思えば、パジャマ姿の妹が眠たげな目で立って、小首を傾げていた。問わずともわかる。寝ぼけていた。 「お兄……?」 「おう、お兄様だ」  極々ゆったりとした動作で首を反対側に傾ける。 「お兄……様?」  呼ばれたこともない呼称に、急に気恥ずかしさを覚えた。 「いいから寝てろ」 「うぃ」  目指すのは、サンタが上体だけ起こしているベッド。 「自分の部屋でだ」  潜り込もうとする妹の頭を鷲掴みにし、向こう側へと追いやる。  妹はお兄様お兄様と呟きながら、夢遊病者のように自室へと戻っていった。しかも部屋を出る際にドアもしめなかった。律儀な妹には有り得ない行動だった。  
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