第一章

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  「用意が出来るまで待ってろ」  と言ったきり、スルナは部屋に閉じこもったままだ。  仕方がないので、居間でテレビをつけて待つ。  テレビの向こう側から糸が伸びてくることもなくて安心した。それは収録でも生放送でも同じだった。  しばらくして、スルナが着替えて出てきた。白いブラウスに、紺色のジャケットを着て、赤と黒のチェックのスカートと白のニーソックスを履いている。実に女の子らしい格好で、似合っていた。 「我が物顔で寛いでんじゃないよ。さっさと行くんだよ。待合室と言う名の戦場にさあ」  口を開けば、やはりスルナはスルナだった。  サンタは苦笑しながらテレビを消して立ち上がり、スルナと共に家を後にした。  外に出ればやはり気が滅入ってくるのだが、スルナと一緒にいるだけで少しは和らいだ。 「それじゃあ、目を瞑りなさいな」 「いや、人通りが多くないからまだ大丈夫だ。人が居ても、目をそらせばいいしな」 「それだと怪しい人じゃん。略すと怪人だよ」 「目を瞑って歩く方がよっぽど怪しいだろ」  スルナは押し売りもせずに、そうかとだけ言って引き下がった。 「眼科でいいよね。眼科はアッチだ」 「いや、場所もわかるから」   案内する気満々のスルナにそれを言っておいたのだが、結論を言えば、家を出てから眼科に到着するまでスルナは案内役に徹したのだった。  眼科についてからも受け付けから何までスルナがやってくれた。さすがに眼科だけあって、目を瞑ってようが怪しまれることもないだろう。  呼ばれるまで、待合室の長椅子に座って待つ。  傍らにはスルナがいる。そして辺りには人の気配を感じて、少しだけ怖くなる。今、閉じている目を開いたら、どんな光景が視界に映るのだろうか。 「ずっと瞑っててもいいから」  スルナの言葉に安心させられる。ここは言葉に甘えて、目を瞑っていようと思った。  そんな矢先の出来事だった。  それは偶然起きたことでどうしようもなく避け得ないことでもあった。  大地が低い唸りをあげながら、大きく振動しはじめ、そしてスルナが小さく悲鳴をあげたのである。  地震だと理解していたが、震度はやや高めだった。そのせいか、いつもは出さないような声をスルナが出したのだ。  だから、だろう。つい見てしまった。  世界を。  揺らぐすべてを。  
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