第一章

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  「ままならないなぁ……」  そう呟いて女の子は心底面倒臭そうにため息をつく。そして、侮蔑にも似た視線を浴びせながら、薄い胸を反らした。 「名前はなんて言うの?」  話を完全に無視して、まるきり見下したような視線で見上げながら、女の子はそう訊ねる。 「サンタ」  憤慨しつつも、彼――サンタは律儀に答えた。 「なに、サンタってサンタクロース? 馬鹿にしてんの?」 「ざけんな。本名だ」 「あ、そう。ごめんね」  謝罪の言葉だが、言葉以上の意がこもっていないのは明らかだった。非常に腹立たしい限りである。 「じゃあ、サンタ」 「呼び捨てか、オイ」 「サンタくん」  余計に腹立たしいのだが、サンタの睨みなど、女の子は意に介す様子もない。 「もう一度訊くから、ちゃんと答えてね」  言って、ナイフを目の前にもってくる。まるで、見えない糸の上をなぞるように、何もない宙を走らせる。 「サンタくんは、見えてる? 見えていない?」  風が通り過ぎる。長い髪をおさえて、女の子は真っ直ぐにこちらを見つめる。  吸い込まれそうになるくらい深い色の瞳。  夕日に照らされて煌めくナイフの切っ先。  彼女の質問──見えてる? 見えていない?  視線の固定に迷う。     瞳を見つめ返すべきか── (違う……)  ナイフを見据えるべきか── (近い、けどそうじゃない……?)  わかっている。けれど、わからない。  見えている。けれど見ようとしないだけ。女の子が斬ったもの。刃先を這わせた何か。つまり、『それ』だ。  目に見えないものを見るためには、目に見えない瞼を開けなければならない。ただ、それだけのことだった。けれど、サンタはそれをしない。故に、答えは── 「見えていない、だ」 「うそ」  女の子は懐疑的な視線を向けつつ、サンタの答えを一蹴した。 「見えていない、じゃない。見ていないんでしょ」 「2択じゃなかったのか」 「選択肢なんて、くだらない」  整った眉をつり上げながら、女の子はサンタを睨みつける。いくらそんな目で見られてもどうしようもない。逆に睨んでやりたいくらいだ。 「いい加減にしろよ。何の話かはしらないが、まずその物騒なもんをしまうかこっちに寄越すかしろ」  ナイフを指し示す。人に見られたら、それこそ騒ぎになりかねない。  
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