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「ままならないなぁ……」
そう呟いて女の子は心底面倒臭そうにため息をつく。そして、侮蔑にも似た視線を浴びせながら、薄い胸を反らした。
「名前はなんて言うの?」
話を完全に無視して、まるきり見下したような視線で見上げながら、女の子はそう訊ねる。
「サンタ」
憤慨しつつも、彼――サンタは律儀に答えた。
「なに、サンタってサンタクロース? 馬鹿にしてんの?」
「ざけんな。本名だ」
「あ、そう。ごめんね」
謝罪の言葉だが、言葉以上の意がこもっていないのは明らかだった。非常に腹立たしい限りである。
「じゃあ、サンタ」
「呼び捨てか、オイ」
「サンタくん」
余計に腹立たしいのだが、サンタの睨みなど、女の子は意に介す様子もない。
「もう一度訊くから、ちゃんと答えてね」
言って、ナイフを目の前にもってくる。まるで、見えない糸の上をなぞるように、何もない宙を走らせる。
「サンタくんは、見えてる? 見えていない?」
風が通り過ぎる。長い髪をおさえて、女の子は真っ直ぐにこちらを見つめる。
吸い込まれそうになるくらい深い色の瞳。
夕日に照らされて煌めくナイフの切っ先。
彼女の質問──見えてる? 見えていない?
視線の固定に迷う。
瞳を見つめ返すべきか──
(違う……)
ナイフを見据えるべきか──
(近い、けどそうじゃない……?)
わかっている。けれど、わからない。
見えている。けれど見ようとしないだけ。女の子が斬ったもの。刃先を這わせた何か。つまり、『それ』だ。
目に見えないものを見るためには、目に見えない瞼を開けなければならない。ただ、それだけのことだった。けれど、サンタはそれをしない。故に、答えは──
「見えていない、だ」
「うそ」
女の子は懐疑的な視線を向けつつ、サンタの答えを一蹴した。
「見えていない、じゃない。見ていないんでしょ」
「2択じゃなかったのか」
「選択肢なんて、くだらない」
整った眉をつり上げながら、女の子はサンタを睨みつける。いくらそんな目で見られてもどうしようもない。逆に睨んでやりたいくらいだ。
「いい加減にしろよ。何の話かはしらないが、まずその物騒なもんをしまうかこっちに寄越すかしろ」
ナイフを指し示す。人に見られたら、それこそ騒ぎになりかねない。
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