465人が本棚に入れています
本棚に追加
女の子はまたもや面倒臭そうにため息をついて、ナイフを抜き身のまま上着のポケットにしまった。
「よし。じゃあ、何でこんなことをしたのかを──うぉあ!?」
ネクタイを縛り上げるように、女の子はサンタの身を引き寄せる。
(ネクタイ外しときゃよかった! ……って、違うな。なんだこの状況は!?)
「まあ今は見えてなくてもいいや。サンタくん、お願いがあるんだけど」
「てめっ、これがお願いするって態度かオイ!」
中学生くらいにしか見えない小柄な女の子のどこにこんな力があるのか、と思うほどに女の子の指はしっかりとネクタイを掴んで離さない。
背丈だって、サンタとは10センチ以上も違う。かなり情けない格好だった。
「この世界は悪に満ちてるの。それを排除するのを手伝ってほしいんだけど」
「おう、チープなヒーローごっこ、もといヒロインごっこだな。設定を練り込んだ方がいいぞ」
「チッ……ままならないなぁ」
「正義の味方は協力者を得るためにナイフ片手に脅したりしないだろ。斬新すぎるんじゃないか?」
女の子は相変わらずこちらの意見など無視して、腹立たしそうに斜め下方向を見据えていた。何か思案している様子でもある。
「まずネクタイを離せ、苦しい」
細い指が解かれ、ようやく解放された。
(い、言ってみるもんだな……)
また引っ張られるのも嫌なので、さっさとネクタイを外し、鞄の中に放り込む。
改めて女の子の様子を窺うと、まるで正義のヒーローに作戦を看破された怪人のような恨みがましい目で、足元の影を仇のように睨みつけながら、小さな声で唸っていた。そんなに威嚇しても影は影たる仕事を全うするばかりで反応なんか一つもないのだが。
とてもじゃないが、そんな女の子の姿からはこの世に蔓延る悪を倒そうなんて爽やかな意気込みは感じられなかった。
少しは役に徹してみたらどうだ、などと進言しようかとも思ったが、今度は胸ぐらを捕まれそうなので止めておく。本人は至って真面目な様子を呈していたからだ。
ふいに女の子は噛みつくような勢いで睨みつけてきた。
正直なところ、さして迫力がない。ナイフを持っていなければ、ただの女の子に過ぎないのだ。
しかもサンタより恐らくずっと年下の。
最初のコメントを投稿しよう!