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「ねえ、なんで? 普通は悪と戦うなんてシチュエーション、手放しで食いついてもおかしくないんじゃない? ましてや、謎の少女と協力してだよ?」
「今の社会じゃ悪を倒しても必ずしも利益を得るとは限らないんだよ。寒い世の中だよなぁ。あと、自分で謎とか言うな」
「ッ……ああもう、ままならない! ままならないなぁ!」
それが口癖なのか、癇癪のように女の子は喚く。
(面倒くせぇな……)
それが今の正直な感想だった。
さすがに年下の女子相手に怒鳴りつけるのは避けたかったが、サンタのストレスゲージは着実に上昇している。
このままでは確実に後味の悪い結果になりそうだった。
「はぁ……もういい。捕まらないうちに危ない遊びは止めとけよ」
ため息まじりにそう言い残し、女の子の傍らを抜けて立ち去ろうとする。
その目の前を、女の子の左手が通り過ぎた。握られているのは、やはりナイフ。
「なんだよ、今度こそ脅しか?」
「……本当に見えてないんだ」
もう聞く耳もつまい。そうひとりごちて、サンタは先を行こうとして──まるで迷子にでもなったかのように、踏み出す足の行き先を失った。
行き先も何も、道は一本しかない。真っ直ぐ歩けばいい。
その意志はあるのに、その方向へ進むという意識を切り取られたような感覚だった。
「……えっ、は?」
喘ぐように、サンタは状況の理解に勤めようとするが、そんなことは無駄だと心のどこかで理解していた。
世界の気まぐれのように、視界を埋め尽くすように現れたのは、蜘蛛の巣のように張り巡らされた──
「……い、と?」
「見えてるじゃん」
見えている。
確かに、サンタの視界には本来は見えざるモノが映っている。
無意識のままに指をのばそうとして、どうにか意識がそれを制した。
夕日に覆い焼かれるように、世界は再び、その──幻の糸をサンタの視界から隠す。
静寂だけが取り残された。
しばらくの間、その『何もない』空間を呆然と見つめ、そして気づけばそこに立っていたのはサンタ一人になっていた。
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