465人が本棚に入れています
本棚に追加
蛍光灯からのびる紐を引くように、サンタの意識に明かりが点る。
ベッド脇を探って、携帯電話を掴む。
時刻は午前三時を過ぎたところだった。
枕元には、置いた覚えのないポケットサイズの四字熟語辞典が、何故か置いてある。妹の仕業だろうか。
辞典には『い』のページに付箋が貼ってあり、見ると付箋には『意味不明』と妹の漢気のある字で書かれていた。
妹よ、お前の行動の方がよっぽど意味不明だ、などと思いかけて、慇懃無礼の意味を調べさせたことを思い出した。
(律儀な奴め……)
欠伸をしつつ、ベッドから立ち上がった瞬間、目眩がして――
そして世界が切り替わった。
引いた紐は、意識に明かりを点すばかりでなく、変なスイッチまで連動していたようだ。
「冗談だろ……?」
病院に行くなら早い方が良いかもしれない。眼科か、脳外科か、精神科か。何にしても、異常な事態だった。
――あらゆる物体から“糸”が伸びていた。
有機物から無機物まですべからく、全ての物体から。
糸の数は、物体によって違いがある。どちらかと言えば、無機物より有機物の方が多く糸が伸びているようだった。例えば、観葉植物と、アルミ缶では観葉植物の方が多い。
延びる方向もまちまちで、他の物体と繋がっているものもあれば、どこに伸びているのわからないものもあった。
そして、どの物体よりも多く、複雑に糸が伸びているのは、サンタ自身だった。まるで糸をつけすぎた操り人形のようでもあり、気味が悪い。
(なんなんだよ……これ)
その蜘蛛の巣のような光景に吐き気を覚え、洗面所を向かおうとする。その方向に、新たに糸が一本、サンタから伸びた。
一瞬躊躇ったが、なるべく糸を見ないようにして洗面所へと急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!