第一章

7/23
前へ
/97ページ
次へ
   蛍光灯からのびる紐を引くように、サンタの意識に明かりが点る。  ベッド脇を探って、携帯電話を掴む。  時刻は午前三時を過ぎたところだった。  枕元には、置いた覚えのないポケットサイズの四字熟語辞典が、何故か置いてある。妹の仕業だろうか。  辞典には『い』のページに付箋が貼ってあり、見ると付箋には『意味不明』と妹の漢気のある字で書かれていた。  妹よ、お前の行動の方がよっぽど意味不明だ、などと思いかけて、慇懃無礼の意味を調べさせたことを思い出した。 (律儀な奴め……)  欠伸をしつつ、ベッドから立ち上がった瞬間、目眩がして――  そして世界が切り替わった。  引いた紐は、意識に明かりを点すばかりでなく、変なスイッチまで連動していたようだ。 「冗談だろ……?」  病院に行くなら早い方が良いかもしれない。眼科か、脳外科か、精神科か。何にしても、異常な事態だった。  ――あらゆる物体から“糸”が伸びていた。  有機物から無機物まですべからく、全ての物体から。  糸の数は、物体によって違いがある。どちらかと言えば、無機物より有機物の方が多く糸が伸びているようだった。例えば、観葉植物と、アルミ缶では観葉植物の方が多い。   延びる方向もまちまちで、他の物体と繋がっているものもあれば、どこに伸びているのわからないものもあった。  そして、どの物体よりも多く、複雑に糸が伸びているのは、サンタ自身だった。まるで糸をつけすぎた操り人形のようでもあり、気味が悪い。 (なんなんだよ……これ)  その蜘蛛の巣のような光景に吐き気を覚え、洗面所を向かおうとする。その方向に、新たに糸が一本、サンタから伸びた。  一瞬躊躇ったが、なるべく糸を見ないようにして洗面所へと急いだ。  
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

465人が本棚に入れています
本棚に追加