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『さよならね』
私がその言葉を落とした時、あなたは驚いたような、哀しい顔をした。
私だって、こんな言葉を言うつもりはなかったし、そんな顔を見たくなかった。けれど、それしか方法はないと悟っていたから伝えた言葉。中途半端な決意が私に言わせた言葉だったら、私は泣くか、叫んでしまいそうだった。
『…あのさ、』
何かを言いかけて、貴方は止めた。
迷いが伝わってきて、痛々しかったけれど、気づかないふりをするしかなかったの。
迷う貴方を私は真っ直ぐに見つめていた。
もう、これがきっと最後になってしまうだろうから。こうして向かい合って、近くに貴方を感じることが。少しでも長く記憶に留まってくれるように、視線は外せなかった。
『今まで、ありがとう』
痛々しい笑顔で、貴方が。
差し延べた手を、一度だけ握って…離せばもう終わる。
振り向いて、去りゆく背中をずっと見つめた。
貴方が見えなくなってから、私は泣いた。
一人では、決められなかった貴方。
東京へ行くことは、貴方の相方になるあの人に聞いたの。
貴方が私に託したのは『別れる』『別れない』の2択。
『ついて来てくれ』でも『待っていてくれ』でもなかった。
その言葉を言わないことが、優しさだとは分かっていたけれど、いっそそう問いかけてほしかった。その迷いがあるなら、私は居ないほうが、貴方は自由にやれる気がしたの。
愛しているから…さようなら。
何度も二人で会った、私の家の近くの公園のベンチに哀しい思い出を残したくは無かったのに。
遠くに見えた夕日が、私の滲んだ視界を紅に染めていたあの日。
夜の帳が降りるまで、私は泣き続けていた。
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