君が残した空

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「先輩、何の小説ですか?」 「これ?」 手元にあった、薄い小説を手渡す。 水曜の昼下がり、遅めのランチに出た会社近くのカフェで、偶然同じように休憩に来たらしい後輩に出会った。今は違う部署だけれど、彼女が入社したての頃は、私の下に居たから、今でも時折悩み相談に来たする後輩。 久々に一緒にランチをして、近況なり愚痴なり…女同士の会話をひとしきり楽しんだ後に問われた一言。 手帳と携帯の間に挟まれて置かれていた読み掛けの小説。 彼女はブックカバーのかけられた表紙をめくって、驚いた顔をした。 「これ、今度映画やるやつですよね?私、主演の芸人さんのファンで、どーしても見たいんですよ!」 「そうなの?」 彼女のそんな趣味は知らなかったと思いながら、私は惚けて見せた。 我ながら、馬鹿だと思う。本屋で、その小説にかかっていた帯をみて手に取ったのは…主演が彼だと知ったから。いつもなら手に取らないタイプの本なのに。 「先輩、映画は好きでしたよね?一緒に行ってくれませんか?ほら、公開日って残業が無い日なんです」 「…いいわよ」 「やった!」 彼女が教えてくれた公開日は、確かに会社で残業なしが推奨されている金曜日。 「私、前売り買っておきますから。約束ですよ」 「えぇ」 こんなに可愛く喜ばれてはお手上げだと思いながら、私はその笑顔に癒されていた。
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