9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「先輩…?」
映画が終わった時、私は少しだけ泣いていた。
泣くほどの映画じゃないのに。
…懐かしくて、悲しかったから。
スクリーンの中の彼を見ていると、昔を思い出してしまって。あの不器用に見える優しさとか、笑い声があの頃のままだと感じたら、止まらなくなった。もしかしたら私はスクリーンの中に居た彼に、今更ながら2度目の恋をしてしまったのかと思うくらい感情が高まってしまった。
お互いに惹かれあって居たのに、別れを選ぶ。
そんなラストシーンが、何故か自分と重なって見えた。あのヒロインは、どんな未来を描くのだろう?新しい生活を鮮やかに生きるのか、また彼のもとに帰ってくるのか。別れを選んで、後悔したりはするのだろうか。忘れられるのか、思い出に出来るのか…考えすぎて、涙が出た。
私は、今も忘れられない。
あのヒロインと違って、私は深い所で彼を知ってしまっていたからかもしれない。
「ごめんね」
ハンカチで涙を拭って、後輩に微笑んでみせた。
『感情移入しすぎた』と言ったら、『先輩が楽しんでくれたなら、良かったです』と後輩は笑ってくれた。
「舞台挨拶、しっかり見なきゃいけないわよ?」
「はい!もちろん」
舞台が明るくなって、歓声。
私は、彼を待った。
観客のあちらこちらから、主演の二人の名を呼ぶファンの声。
それを聞いていると、隣で喜ぶ後輩を見ていると何故か…優しい気持ちになれた。
確かに、私は今も忘れられないし、映画を見て色々思い出しはしたけれど、泣いたら少しだけすっきりとして。素直に、一人のファンになれる気がした。
私がかつて愛した人は、こんなに愛されている。
そう感じたら、あの頃の気持ちも選択も間違ってなかったと思えた。彼はこんなにも成功しているんだから良かったじゃない。少しだけ明るくなった客席に向かって、出演者が笑いかけ、手をふっている。もちろん、彼も。
「先輩、私たちも名前呼んじゃいましょうよ」
興奮した彼女に便乗して、私も一度だけ歓声に紛れて名を呼んだ。
私は全てを受け入れ吐き出して、また前を向ける。
懐かしいあの公園に足を向けられる気がし。
「連れて来てくれて、ありがとう」
私の大切な後輩は、無邪気な笑顔を見せて頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!