9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「まだ好きなの…今度は、ちゃんと忘れるから。ほんと、ごめん」
思わず呟いた言葉。
こんなこと言っても、迷惑だって分かってるのに。
動揺が伝わってきたから、言ってしまってから後悔した。
「…もっかい、やり直されへんか?」
静かだけれど、決意の篭った告白。
肩に置かれた手が、二人に少し距離を作って、私の泣いた目を覗き込んできた。痛いくらい真剣で、不安で…縋るような彼の瞳。ここまで追い詰められた目は初めて見た。
「舞台挨拶来てんの見た時、びっくりした。泣いた目やし、かと思えば笑ってる。応援してくれてたんかとか、元気やったらええとか…色々考えた。せやけど、お前が名前呼んだ時…ほかのお客さんに紛れてたけど、ほんまに聞こえたんや。俺の中にあったお前の声で、呼ばれた俺の名前が。」
「…私、後輩がファンやから一緒に見に行ってて言われて。いいよって行ったら、舞台挨拶で。映画見て…思い出したら、泣けてきた。まだ好きやって自分で自覚してたけど…こんな…」
「今やったら、俺は言えるねん。『待っててくれ』って。あの時、なんで…ってずって思ってた。映画やってても、好きやのに別れるんは辛いって…けど、別れなあかん時もあるって知った。でも、今は違うやろ?頼むわ。お前やないとあかん」
夢に見たような、話。
でも、私にひっかかっていること。
「…彼女は?」
彼は、すぐに察した顔をした。
「…あれは違う。信じられへんのやったら、ちゃんと証明する」
真剣な目で分かった。
「…信じるよ。もう一度、私も頑張る」
「ありがとう」
私から、抱きしめた身体。
あの時捨てた優しい場所と声が、戻ってきたと知りたかったから。抱きしめ返してくれる腕と髪を撫でる手。
全部大切だったものが、戻って来てくれた。
変わらない空に、変わりゆく雲が流れて…私たちは、また寄り添う。
あの日、私の視界を染めた紅。
泣き止んだ後に広がった蒼。
その続きのような…漆黒。
『愛してる』
今度は、捨てない。
動けずに居た私は、やっと。
君が私に残して行った空の色を受け入れて、二人で空の色を見る明日に、動いて行ける奇跡を僅かな星にそっと願った。
end
最初のコメントを投稿しよう!