君が残した空

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「まだ好きなの…今度は、ちゃんと忘れるから。ほんと、ごめん」 思わず呟いた言葉。 こんなこと言っても、迷惑だって分かってるのに。 動揺が伝わってきたから、言ってしまってから後悔した。 「…もっかい、やり直されへんか?」 静かだけれど、決意の篭った告白。 肩に置かれた手が、二人に少し距離を作って、私の泣いた目を覗き込んできた。痛いくらい真剣で、不安で…縋るような彼の瞳。ここまで追い詰められた目は初めて見た。 「舞台挨拶来てんの見た時、びっくりした。泣いた目やし、かと思えば笑ってる。応援してくれてたんかとか、元気やったらええとか…色々考えた。せやけど、お前が名前呼んだ時…ほかのお客さんに紛れてたけど、ほんまに聞こえたんや。俺の中にあったお前の声で、呼ばれた俺の名前が。」 「…私、後輩がファンやから一緒に見に行ってて言われて。いいよって行ったら、舞台挨拶で。映画見て…思い出したら、泣けてきた。まだ好きやって自分で自覚してたけど…こんな…」 「今やったら、俺は言えるねん。『待っててくれ』って。あの時、なんで…ってずって思ってた。映画やってても、好きやのに別れるんは辛いって…けど、別れなあかん時もあるって知った。でも、今は違うやろ?頼むわ。お前やないとあかん」 夢に見たような、話。 でも、私にひっかかっていること。 「…彼女は?」 彼は、すぐに察した顔をした。 「…あれは違う。信じられへんのやったら、ちゃんと証明する」 真剣な目で分かった。 「…信じるよ。もう一度、私も頑張る」 「ありがとう」 私から、抱きしめた身体。 あの時捨てた優しい場所と声が、戻ってきたと知りたかったから。抱きしめ返してくれる腕と髪を撫でる手。 全部大切だったものが、戻って来てくれた。 変わらない空に、変わりゆく雲が流れて…私たちは、また寄り添う。 あの日、私の視界を染めた紅。 泣き止んだ後に広がった蒼。 その続きのような…漆黒。 『愛してる』 今度は、捨てない。 動けずに居た私は、やっと。 君が私に残して行った空の色を受け入れて、二人で空の色を見る明日に、動いて行ける奇跡を僅かな星にそっと願った。 end
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