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ところで、僕はK高校に在学しているのだが、そこは近くにハーブ園があるという利点以外は興味を引くものも無い。
友人も程々にあって、花を愛びととして接している、と言う点を打ち明けずにいれば、それなりには充実した学生生活だった。
その中でも僕が特に精を入れていたのが、演劇部の脚本書きだった。際立った文才があるというわけでは無いが、花と言う存在を常に身近に感じる為には、花の絵を描いたり、花の詩を書いたりする事ぐらいしか無かった。
そんな自己満足でも、心の不安を安息に導く為の数少ない事だと感じる為には必要不可欠な事だった。
演劇部に入ったのは、別にそれが大きな理由というわけでは無かったが、今年の文化祭、取り分けて演劇の項目に自らの作品を上演したい、という目的があった。
先程も話したが、僕はピグマリオン―――の神話に非常に陶酔しているので、その話を是が非でも劇として上演したいという気持ちが強かった。あれは僕に似て、人では無いものを愛し続けた純情な男だ。
ピグマリオンを上演したいと思うにつれて、数々の困難があった。一つは僕は脚本書きであり、主役には先輩であるTが努めると決定していた。ピグマリオン自身を自分が演じなければ意味が無いわけで、この難題は毎日の様に僕の頭を悩ませた。
Tは眼鏡をかけた短髪の男で、ピグマリオンには到底イメージのつかない役者だった。よって僕はこの男を否が応にも引きずり降ろす必要があった。
そしてもう一つに石像役に相応しい女性が見つからない、と言う事だ。お世辞を抜きにしても、石像役は美しくかつ神聖で見るからに芸術的でなければいけない。この非常に難しい問題の一つは、ある日いきなり解消された。
そしてその出来事こそが、僕の運命を変えてしまう事になるとは、それが例え女神の慈愛だとしても想像出来ぬ事だ。
そして僕はその分岐点を巧みに利用し、見事「ピグマリオン」の成功を目論んだのである。
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