第壱の巻「紅き刃の死神」

7/18
前へ
/30ページ
次へ
朝… 多くの生徒が思い思いに登校する中、1人だけ俯いて登校する女生徒がいた。 静玖である。 (昨日のあれ、一体何だったのかな……?) 脳裏から離れないのは、昨夜みた生徒会長の事だった。 何故、陰惨な殺人事件が起きた場所で1人でいたのか?それも、初めて見た時とはかけ離れた鬼のような形相で…… (まさか見間違い…って事は無いよね?でも『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って言うし……ん~~~~) 何もかも、静玖の頭では説明がつかなかった。 「やっほー静玖ぅ♪」 「お早う、今日は早いんだな」 程無くして後ろから綾子と小春が追い付いて来るが、静玖のしかめ面が晴れる事は無かった。 「おや、君は昨日の……そんなしかめ面でどうしたのですか?」 俯いて歩いていた静玖。その意識を浮上させたのは、唐突に掛けられた声だった。 (ぇ?) その声の主を見た瞬間、静玖の意識は停止してしまった。 「って、鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔して……大丈夫ですか?」 目の前にいたのは、昨日の生徒会長…誰あろう、平井 清治その人だった。 「あっ…!!いやあのその、何でもないんです!!ホントに大したことありませんですって!!!!」 今しがた脳裏に浮かんでいた人物が、リアルに目の前にいる。それは、ただでさえ内気な静玖を動揺させるのに十分過ぎた。 「はっはっはっ、そんなにテンパらなくても獲って食ったりはしませんよ。まずは落ち着きましょうか?」 上級生らしい大人びた微笑を浮かべ、清治は静玖の前髪を軽く撫でた。 「はっ、はい……!!あ、あの平井先輩!!」 あまりの出来事に、興奮気味だった意識が飛びそうになる。それを辛うじて制しながら、静玖は意を決して口を開いていた。 「あの、先輩は昨夜、公園にいまし――――」 「静玖~~~って、あれ?平井先輩も!?」 だが……せっかく言いかけた言葉は、横合いから駆け付けた小春の呼びかけに遮られてしまっていた。 「あっ、小春ちゃん…な、何でもないです!失礼致しましたぁ!!」 大慌てで彼に頭を下げ、静玖は小春と一緒に逃げるように駆け出して行った。 静玖は、気付く事は無かった…… 彼女の言葉を聞いた瞬間、清治の表情が豹変したことを…… それは昨夜偶然目にした、あの鬼のような鋭い表情であった事など、気付く筈も無かった……
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加