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「むぐぐ!もがっ!」
後ろから口を塞がれ、強引に地面に膝を付かされた静玖。慌てて抵抗するが、逆に腕を捻り上げられてしまう。
「全く……誰かと思ったら、また君でしたか。昨日と言い今日と言い、自分がどんな立場にいるのかまるで分っていない様ですね?」
もう既に半泣き状態になっている静玖の耳に、声が聞こえたのはその時だった。
続いて、視界に見覚えのある紫がかった黒髪が煌めく。
静玖を押さえていたのは…………平井 清治だった。
(ひっ、平井先輩!?どうしてこんな所に―――)
「こら、静かにしなさい。夜なのに近所迷惑ですよ」
夜の薄暗い中に見えた清治の表情は、まるで抜身の刃の様に真剣なものだった。
「昨日も公園の外で僕の事を見ていましたね?もしかしてストーキングの趣味でもあるのですか?」
もう何が何やらわからなくなる静玖。その彼女に、清治の方は何事も無かったように言う。
「きっ、昨日…やっぱりあそこにいたの、先輩だったんですか?」
「だとしたら何ですか?」
恐る恐る問い掛けた静玖の質問を、眼前の生徒会長はしれっとした口調で切り返していた。
(やっぱり―――でも、先輩は一体何やってたの?)
それは、先刻までの疑問が確信に変わった瞬間だった。
だが……不意に、清治の表情は更に鋭くなった。
「…まぁいいでしょう。夜間の外出はあまり許されるモノではないですが、今回は見逃します。変な人が出ないうちに早く戻りなさい……!」
そして、唐突に静玖の体を解放した。
「えっ?あの、先ぱ――――」
突然の行動に、静玖は思わず振り返って聞こうとした。
だが、その瞬間……
ゾクッ!!
突然、静玖の全身に不気味な悪寒が走ったのだ。
(なっ―――――何!この匂い?)
それと同時に、周囲から生臭い匂いが漂い始め、更には低い唸り声のような音が微かに聞こえてくる。
「っ…嗅ぎつけられたか、こんな時に………橘さん、僕から離れないで!!!」
その瞬間…今しがた突き放された静玖の身体は、再び清治の腕に収まっていた。
「せっ、先輩!?」
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