第壱の巻「紅き刃の死神」

9/18
前へ
/30ページ
次へ
「むぐぐ!もがっ!」 後ろから口を塞がれ、強引に地面に膝を付かされた静玖。慌てて抵抗するが、逆に腕を捻り上げられてしまう。 「全く……誰かと思ったら、また君でしたか。昨日と言い今日と言い、自分がどんな立場にいるのかまるで分っていない様ですね?」 もう既に半泣き状態になっている静玖の耳に、声が聞こえたのはその時だった。 続いて、視界に見覚えのある紫がかった黒髪が煌めく。 静玖を押さえていたのは…………平井 清治だった。 (ひっ、平井先輩!?どうしてこんな所に―――) 「こら、静かにしなさい。夜なのに近所迷惑ですよ」 夜の薄暗い中に見えた清治の表情は、まるで抜身の刃の様に真剣なものだった。 「昨日も公園の外で僕の事を見ていましたね?もしかしてストーキングの趣味でもあるのですか?」 もう何が何やらわからなくなる静玖。その彼女に、清治の方は何事も無かったように言う。 「きっ、昨日…やっぱりあそこにいたの、先輩だったんですか?」 「だとしたら何ですか?」 恐る恐る問い掛けた静玖の質問を、眼前の生徒会長はしれっとした口調で切り返していた。 (やっぱり―――でも、先輩は一体何やってたの?) それは、先刻までの疑問が確信に変わった瞬間だった。 だが……不意に、清治の表情は更に鋭くなった。 「…まぁいいでしょう。夜間の外出はあまり許されるモノではないですが、今回は見逃します。変な人が出ないうちに早く戻りなさい……!」 そして、唐突に静玖の体を解放した。 「えっ?あの、先ぱ――――」 突然の行動に、静玖は思わず振り返って聞こうとした。 だが、その瞬間…… ゾクッ!! 突然、静玖の全身に不気味な悪寒が走ったのだ。 (なっ―――――何!この匂い?) それと同時に、周囲から生臭い匂いが漂い始め、更には低い唸り声のような音が微かに聞こえてくる。 「っ…嗅ぎつけられたか、こんな時に………橘さん、僕から離れないで!!!」 その瞬間…今しがた突き放された静玖の身体は、再び清治の腕に収まっていた。 「せっ、先輩!?」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加