第壱の巻「紅き刃の死神」

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海に揺られる唐船…… 舟から放たれ、海上を飛び交う夥しい矢の雨…… 唐船を守って戦う、傷だらけの鎧武者達…… そして……女の人に抱かれたまま、海に消えていく小さな男の子――――― 「――く、静玖(しずく)ってば!」 「ふぇ??」 まどろみの中、ガンガンと聞こえる声。薄ら目を開けると……視界に入ったのは、しかめ面の親友達の顔だった。 「静玖ってば、今日はどうしたのさ?何かボーっとしちゃって」 ついて来る親友の声を耳に、橘 静玖(たちばな しずく)はボーっとする頭を揺らした。 「また、いつもの夢か?」 もう1人の親友が、少し心配そうに静玖の顔を覗き込む。 「ぅ、ううん。大丈夫だよ小春ちゃん」 濃紺のストレートの髪が似合う幼馴染、朝影 小春(あさかげ こはる)を見ながら、静玖は苦笑して頷いた。 「だといいけど……クラス委員なんだし、あんまり無理しちゃダメだよ?」 小春は、そんな静玖を心配そうに一瞥すると、頭1つ分小柄な彼女の頭をそっと撫でていた。 「小春~~静玖ばっかりズルい~~~~。あたしもナデナデしてぇ~~~」 そんな様子を見ていた亜麻色の天然パーマの少女が、口を尖らせて詰め寄ってくる。 「あ、あわわ…綾子ちゃんってば、落ち着いてぇ~~~」 静玖は慌てて親友を止めるが、つんのめった彼女は小春に頭を鷲掴みにされてジタバタもがいていた。 「こら綾子、お前はもう少し静玖を見習って落ちつけ」 自分に押さえられている亜麻色の髪の少女、柳 綾子(やなぎ あやこ)を見て、小春が呆れ口調で言うのがわかる。 「ぶ~~っ、小春のケチ~~~」 「あ、あはは…小春ちゃんもそのくらいに――――」 どんっ 「わたっ」 2人の様子を見ていた静玖。だが、廊下の曲がり角に差し掛かった瞬間、誰かに当たってしまっていた。 昼の逆光に煌めきながら、彼はそこに立っていた。 静玖よりも紫がかった短い黒髪。170cmはあろう体躯。そして、眼鏡の奥に見える不思議な藍色の瞳を携えて…… 「こらこら、前方に注意しなさい。転ぶと怪我の元ですよ」 その長身の男子生徒は、衝突して尻餅をつく静玖をそっと起こす。 「良かった、怪我が無くて……そのリボンは中等部ですね?あまり廊下ではしゃいではいけませんよ」 そして、何事も無かった様に踵を返して去って行った。
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