第壱の巻「紅き刃の死神」

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「静玖~~~」 呆けている静玖に、小春と綾子が駆け寄ってくる。 「あっ、小春ちゃんと綾子ちゃん」 廊下にぺたんと座っている静玖は、2人に腕を掴まれて立たされていた。 「いや~~、それにしてもあんな所で王子と鉢合わせなんて、静玖ってば役得じゃん♪」 放課後、校舎から出た静玖に綾子がにやけ顔で話しかけた。 「あの人、知ってるの?」 その顔がやや興奮気味に見えたので、静玖はたじろぎながらも聞いてみた。 「あんた、知らないの?高等部の平井先輩。『鹿ケ谷の王子』の事」 途端に、後ろにいた小春が驚いて声を上げていた。 「へ…?王子?」 「平井 清治(ひらい せいじ)先輩。高等部2年で、うちの学校の生徒会長なんだ。あのかっこいい容姿に加えてスポーツ、勉強共にトップクラス。そのせいで王子ってみんなから呼ばれてる……って、専らの噂。静玖が知らないのはちょっとびっくりしたけどね」 「あたしもびっくり~~。静玖もそういうとこ、ちょっとアンテナ伸ばしたら?」 綾子、小春と違って、静玖はこういった世間事に疎いところがある。 積極的でない性格なのも災いしているが、自分が通っている学園の有名人さえ知らないとなると…… 『はぁ~~~………』 どことなく心配になる親友達の姿があった。 「清治」 生徒会室に戻った青年に、ふと声が掛かる。 「鴉山(からすやま)先生、どうかしましたか?」 青年―平井 清治―は、持っていた資料類を傍に置くと、声の主を見据えた。 目の前にいるのは、彼と面差しのよく似た長身の男。彼より頭1つ分高い背丈と、赤紫がかった不思議な瞳を持つスーツの彼は、清治と目を合わせると小さく、しかし鋭い口調で言った。 「――――奴等がじきに来る。用意しておけ」 「……了解した」 その日…2人きりの生徒会室で、怪しげな声が交わされていた。 夕焼けの空は、風と共に雲を薙いで行く。 それはまるで、これから起こりうる波乱を示唆するかの様に、静かに……そして、確実に移り変わっていった。
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