第壱の巻「紅き刃の死神」

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「そう言えばさぁ……小春も静玖も知ってる?」 朝の光が降り注ぐ通学路を、3人の女子中学生が歩いていた。そのうちの1人が、不意に切り出す。 「何だ?いきなり―――」 「また出たんだってさ。『猟奇獣』がね……」 猟奇獣……それを聞いた途端、残り2人の表情がさっと変わった。 事の起こりは1週間前。 帰宅途中の男性が公園で他殺死体で発見された事だ。 当時、現場を見た警察もメディアもその惨状に言葉を失った。 発見された死体は損壊が激しく、辺り一面が血の海。 しかも損壊された死体は殆どが残骸と言っても過言ではない。脳や臓器などは発見されなかった。 そして、その残骸に残された傷は銃や刃物の類ではなく、何らかの巨大な動物による噛み傷だったのである。 何か巨大な獣がこの町に潜んでいる……そんな危険がまことしやかに囁かれ、いつしか正体不明のこの犯人は「猟奇獣」と呼ばれるようになっていたのである。 そのために戒厳令が敷かれていたのだが、昨夜また被害が出たのだった。 「ニュースじゃ、今回の被害はチンピラ3、4人って聞いたけど……でも、怖いよね……?」 中等部の教室に向かって歩いていた綾子は、いつになく訝しげな表情で2人に振り向いた。 「そ、そうだよね綾子ちゃん……」 小春はあからさまに表情を濁し、静玖も顔を青ざめながら相槌を打っていた。 「柳、朝っぱらから何物騒な話をしてるんだ」 そんな時、3人の後ろから声がした。 「げっ、この声……」 ちょうど背後から聞こえた声に綾子がビクッと身震いしてふり向こうとした時、 ぱこっ 「あ痛っ」 その頭に、出席簿が降ろされていた。 「そんな話をしてる暇があったら、さっさと教室に入れ。授業が始まるぞ」 立っていたのは、背の高い男性教師だった。 「かっ、鴉山先生……」 中等部3年C組担任にして生活指導を兼任する古典教諭、鴉山 敦(からすやま あつし)。 集会や学校行事にも姿を見せる事のない学園長の肝いりで赴任してきた青年。一説にはその学園長の孫とも言われ、去年から中等部で教鞭を振るっている男だ。 「橘も朝影も、そんな辛気臭い話をしてる場合か?早く席に着けよ」 3人の呆けた表情を尻目に、鴉山はさっそうと教室に入っていった。 「あ~~!先生より遅かったら遅刻になっちゃいます~~~~!!!」
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