第十八話 決意を胸に

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「でも、来てくれてありがとう。レイシアが助かったのは、あなたのお陰。あなたのことは忘れないわ。今までありが――」 「待ってくれ!」  リーマスは力の限り叫び、マリアは途中で言葉を失った。ここで事情を理解していないレイシアが兄に向けて首を傾げるが、ライトはしっと人差し指を立てた。正直、ライトも事情は半分しか把握していないので説明などできないのだが。  だが、何となくではあるが、ライトは何かを期待していた。それが何なのかははっきりとは分からない。ただリーマスがこの場に現れてから胸につっかえていた何かが取れた気がするのは薄々感じていた。  リーマスはマリアの手を取って、そしてまっすぐと見つめた。 「俺が全部悪かったんだ。もう一度約束させてくれ。今度こそ君を、家族を守る。だから、もう一度だけ俺にチャンスをくれ。もう一度だけ、この指輪を受け取ってくれ」  リーマスがポケットから取り出したのは、フェルマータの屋敷でマリアが外した結婚指輪だった。  それを見てマリアはさらに涙ぐむ。片手はリーマスが握っているので、口を隠すようにして目元を押さえた。涙が止めどなく溢れてくる。涙に色がついていたら、きっと先ほどの涙とは違う色をしているはずだ。 「……私でいいの?」 「陳腐な言葉かもしれないが、君じゃないと駄目なんだ」  リーマスはそう言うと、マリアの薬指に指輪を通した。マリアはそれを抵抗せずに受け取る。  答えは、イエスだ。  二人は強く抱擁し、そしてそっと唇を重ねた。神聖な場所ではないが、講堂の雰囲気も相俟って小さな結婚式のようだ。  レイシアは事情が分からないながらも、何やら両親が幸せそうにしていることが嬉しいのか兄の手を取りきゃっきゃと騒いでいた。カイはヒューヒューとはやしたてようとしたところで、両側からニーナとマリアに肘で突かれて「ぐえ」と苦悶の音をあげた。クレアとライザーは遠くで互いを見合わせて、そして小さく微笑んでいた。 「それじゃあ、帰りましょうか」  クレアの一声で皆がうんと頷いた。敵は消えたとはいえ、できれば長居したくはない場所だ。続きはフェルマータの屋敷でということで、一同はフェルマータ家へと凱旋するのであった。 next to the epilogue...
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