最終話 乾杯

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 デーモニッシュが壊滅したというニュースは、瞬く間にファンダル全域に広まった。その内容はファンダル地方の領主自らがデーモニッシュのアジトに乗りこんだというものだから、フェルマータは信望と支持を得てその立場を盤石なものにすることだろう。  その話題はしばらく続くことになるのだが、二、三カ月もすれば厳しい冬を越える準備が必要になるので、ほそぼそと話題に上がるものの主だった話題は備蓄の相談だとかそういったものばかりだ。  魔法学園も年末から冬季休暇に入る。生徒たちは年越しを家族と過ごすために、寮を出て各々の家へと帰っていった。  そして、ファンダル地方の南部にある、森の中のギルドにも子供たちの声が響いた。 「ただいまー!」  馬車を乗り継いで、子供たちはギルド『ラピスラズリ』に到着し、昼間っから酒を飲み交わすギルド員たちに迎えられた。  奥にある暖炉がかじかんだ手を温めてくれる。今年の冬はやけに寒く、子供たちは凍える体を必死で温めていた。商業都市マルクからギルドのアジトまでは長旅というには短い距離だが、子供たちにとってはこの寒い中大変だっただろう。  じんじんとする手を擦りながら辺りを見回す。誰を探しているのかは一目瞭然で、近くにいた年齢不詳のウェイトレスが子供たち教えてあげた。 「クレアなら書斎にいるわよ。今頃本の山に埋もれてるかもね」  キャサリンは階上の方へと視線を投げると、その顛末(てんまつ)の元凶たる小悪魔さながらの悪戯っぽい笑みを浮かべる。  子供たちもそれにクスリと笑い、キャサリンに礼を言って階段を駆けのぼる。足並みを揃えて書斎の前に立ち、そして勢いよくそのドアを開いた。 「クレア、ただいま!」  その声を聞いて、部屋の奥で山積みになっていた本が何冊か宙を舞い、その中から見知った顔が現れた。  本当に本に埋もれているとは思わなかった子供たちは、クスクスと笑い声を溢す。そんな子供たちにクレアも苦笑しながら、自分の身体にのしかかった本の一冊をどけて、そして微笑んだ。 「おかえりなさい。三人とも元気で何よりだわ」  三か月振りに見るクレアの顔は目の下にクマが出来て、少し痩せたように見えた。
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