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そして部屋に残ったのはクレアとストラド、そして……。
「……マリアさん?」
ライトの母親が部屋に残り、クレアの周りに散らばっている本をみて苦笑いをしてみせる。
「いえ、ちょっと心配になったものですから。あまり無理をしてはいけませんよ?」
わざわざ気遣ってくれているのが嬉しくて、クレアは細い腕を曲げて力こぶを作るような仕草をしてみせる。
「大丈夫ですよ、丈夫なだけが取り柄ですから」
「あなたは丈夫かもしれないけれど、お腹の子はそうじゃないでしょう?」
そう言われてクレアは一瞬言葉を失い、そしてハッと息を飲んだ。
「ど、どうしてそれを!?」
クレアは慌ててお腹を押さえた。クレアでさえも分かったのはつい先日の話で、見た目ではまだ決して分かるものではないはずだ。
マリアはふふっと笑った。
「《ドールマスター》の力でね、人の波長のようなものが見えるのだけれど、子供を身ごもるとその波長がちょっとだけ変わるの。旦那様はさぞかし必死に頑張っているでしょうね」
相手が誰かはもはや確認する必要もないだろう。マリアがクスクスと笑うと、クレアは顔を真っ赤にした。
「あの人はまだ知らないんですけどね……。とにかく、マリアさんはライトと一緒にいてあげてください。こっちは大丈夫ですから。ほら」
クレアがストラドに目で合図をすると、ストラドは小さく頷いて、そして手にしている杖の先端で地面に転がっている一冊の本を叩いた。
すると、本が急に浮かび上がって、自然と元の場所へと戻っていったのだ。
マリアはその様子を見て少し驚いていた。
「これは、素敵なお部屋ですね」
「自慢の書斎じゃよ。もっとも、一冊だけ無くしてしまったようで、一か所空欄が出来てしまうのが玉にきずじゃがな。本が多すぎるというのも問題じゃ、何の本がなくなったのか分からなくなってしまうからの」
その本はきっと『歴史に残る悪の魔法使い』というタイトルに違いない。
そんな事情もしらないマリアは、ふふっと笑って再びクレアの方に視線を戻した。
「それじゃあお言葉に甘えて。でも、無理はしないでね」
「大丈夫ですよ、仕事ももう少ししたら落ち着くと思うし、お爺ちゃんも手伝ってくれていますから」
互いに笑顔で頷き、マリアは部屋を出ていった。
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