最終話 乾杯

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 一階に続く階段を降りていると、下が妙に騒がしい事に気付く。人が壁の方に集中しており、どうやらそこは窓際らしくみんなで外を眺めているようだった。 「あ、母さん! 見て見て!」  ライトが母の姿に気付いて外を見るように促す。マリアは窓を覗き込んで、感嘆の声を漏らした。 「これは、雪? 何年ぶりかしらね」  降水量が少なく気候も温暖なファンダル地方では雪は滅多に降る事はない。ファンダル地方の人たちにとって、これはとても幻想的な光景に映ったことだろう。  しんしんと降る雪を、ライトは家族と共にずっと見つめながら今までの事を思い出していた。今からちょうど二年前になるだろうか。ライトがフェルマータ家を出た時は、同じ冬でもまだ暖かかった。  家を出る時、母親と別れることを渋った。森の中で魔物に襲われ、ライザーたちに助けてもらった。クレアと共にフィーネ村まで行って、ペゼーに追い返された。  ギルドに迎えられて、同じ孤児のカイとニーナに出会った。カイの悪だくみに乗って、クレアたちの魔物退治にこっそりついていってとても怖い目にあった。オーバードライブを起こして死にそうな目にあったが、そのお陰で雷の魔法を使えるようになった。  グラン魔法学園に入学して、マリアとレイシアに出会った。母親と同じ名前のクラスメイトがいた時は本当に驚いたものだし、何よりも妹が一緒に入学したことは心底驚いた。  思い出はまだまだ終わらない。闇ギルド《タランテラ》に誘拐されたこと。ジェイルに魔物退治へと連れて行かれたこと。それがバレて、クレアに怒られたこと。レイシアの悩みを聞き、遠足で崖下に落ちて、その時にマリアの悩みも知った。  その後、ジェイルが死んだと聞かされた。あの時は本当に悲しくて泣いた。今思っても棺に入っていたのがジェイルの姿を模した人形とは思えなかったのだから、実はジェイルはすごい奴なのかもしれない。
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