最終話 乾杯

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 それから《デーモニッシュ》に襲われて――そこから先の事を思い出そうとすると、今でも身体が震えてしまう。今思ってもよく生きていたなと思うほど危険な目にたくさんあった。自分に芽生えた雷の魔法は強力でも、自分一人だけでは決して生き残れなかっただろう。  ライトは懐古から思考を戻して、改めて窓の外を見た。雪の一粒一粒がまるで一つの思い出のように、空から湧き出るように降っていた。 「おーい、ライト!」  不意に名前を呼ばれて振り返る。気付けば窓際に立っていたのはライトと母親だけだった。  呼ばれた先にはカイが待ちきれないとばかりに木のジョッキを抱えてこちらを睨んでいる姿が見える。あの中には暖かいハチミツジュースが入っているのだろう。こんな寒い日にはぴったりだ。  ライトは母親の手を取って、皆が囲っている円形のテーブルの席につく。皆が席につくと、ついでに周りにいたギルド員たちまでぞろぞろと集まってきた。  妙な静寂が流れ、一同は何故かリーマスへと視線を送る。 「えー」ゴホンとリーマスは咳払いを一つ。「それでは、ファンダルの輝ける未来を……」 「おいおい、堅いな兄ちゃん」  ギルド員の一人が笑いながら言った。それにつられて周りも笑いだす。ファンダル地方の領主相手に失礼な態度だったが、領主の顔などそうそう知る機会もないのだから当然かもしれない。 「じゃあ、こんな時にはなんと?」  リーマスはギルド員の態度は全く気にすることなく聞き返す。ギルドの一人はニッと笑いながら、酒の入ったジョッキを掲げた。 「ウマイ酒に!」  次いで、別のギルド員が同じようにジョッキを掲げた。 「ウマイ飯に!」  声が上がると同時に皆がわらわらとジョッキを掲げ始める。  ライトはチラリと貴族出身のクラスメイトの方を見てみた。案の定マリアはどうしていいのか分からずあたふたしていたので、ライトは目配せして片手でジョッキを持ってみせる。マリアはそれに倣って、手に持ったジョッキを持ち上げた。
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