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本館から西館へと向かう通路で、使用人たちが大騒ぎをしていた。外から見れば西館は大破している。出産が行われている西館に雷が落ちたのだ、無事では済まないだろう、皆がそう思っていた。
リーマスが西館に辿りつくと、そこでは館に仕える魔法使いたちが必死に消火をしていた。各々手から水の球を作り壁にぶつけている。だが、一時はジュッと音を立てて火の勢いは衰えるものの、全てを鎮火するのにどれほどの時間がかかるか見当もつかない。
陽炎で揺らめく視界の先に、出産が行われているはずの部屋への扉が見えた。
「マリアーーーーーーー!」
リーマスは叫んだ。自分はここにいるぞと、もう安心だと、姿の見えぬ妻に聞こえるように。
瞬間、リーマスの両手から大量の水が噴き出した。それはまるで二頭の龍のように部屋の中を駆け巡り、壁を破壊しながら火を鎮火していく。
周りにいた魔法使いたちも、すごいと呟きながら呆然と眺めていた。代々フェルマータ家は凄腕の魔法使いが生まれるのだが、その魔法を見る機会などそうあるものではない。
ほとんどの火が消えた部屋を、リーマスはバシャバシャと音をたてながら水溜りの上を走り抜けた。
「マリア!」
扉を開きながらリーマスは叫んだ。だが、次の光景を見てリーマスは絶句した。
中の様子は全く乱れていない。火も燃えていないし、棚や机が倒れた形跡もない。隣の部屋があれだけ燃え盛っていたのに、これは不思議な光景だった。
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