第1話 内なる魔

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魔物が叫ぶと同時にその背中から先程の触手が2本伸びた。 新鮮な肉を喰らわんと男に襲いかかる。 相対する男は腰の剣の柄に手をかける。 次の瞬間、迫りくる触手は2本とも男まで届かず弾かれていた。 「イてぇな! 軍のヤローか?」 「おしいな。“元”軍人だ」 男は微笑を浮かべた。 「“元”かよ。まぁ、残念だけどその剣じゃオレの体は切れねえみてえだなぁ……それにこれ以上喋ってる時間はねぇんだよ。腹が減ってきてよぉ……」 再び触手が鎌首をもたげ、男に狙いを定める。 「死ねぇ!!」 2本の触手が男に向かっていく。 「剣では切れんか……」 そう言って剣を地面に突き刺す。あまりに無防備な男に触手が迫る。 しかし、男の口元は微かに笑っているようにも見えた。 突如、男の足元から赤黒い帯のようなものが出現した。その血のような色をした帯は男の身体を這うように包んでいく! 身体が全て赤黒く染まった時、人間としての姿はそこには無かった。 全身を覆う漆黒の体毛、発達した四肢とどす黒く光る爪。 銀色のたてがみに、狼を思わせるその容貌は凄まじい覇気を帯びている。 “人狼”のようなその姿はまさに、“魔物”だ。
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