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‐人魚の章‐
「どう言う事よ!私達を野垂れ死にさせる気?」
「帰ってくれ!今村は封鎖しているんだ。あんた達を入れちまったら混乱しちまう」
「何で封鎖なんかしてるのよ!」
「とにかく宿なら他を当たれ!」
五日の野宿を経て漸く見つけた村だったのに。落ちかけた陽を眺め、シエラは溜め息を吐いた。
簡素な造りの塀と門。軽装備をしてそこに立つ男は頑なに彼女らを拒み、負けん気の強いシエラをとうとう追い返してしまった。
仕方がない、今日の所はまた野宿をして明日また違う所を探さねば。年頃の娘としてはそろそろ風呂に入りたいし、食料ももたないだろう。何より、慣れない旅で疲労が溜まっている。
「それにしても……何かあるのかしら、あの村」
溜め息を洩らしながら野営が出来そうな場所を探し歩き、足場の悪い獣道を進んだ。陽は既に落ちかけている。
「──…シエラ様、川の音が聞こえます」
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