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一歩前を歩く背筋の良い痩躯の男は耳聡い。
それが何よ、と言いかけた時、後ろから声が聞こえた。
「魚は、居らぬ……すまんな」
全く気配が無かった──…。
驚き生唾を飲んで振り返ると、そこにはシエラよりも深い碧の瞳に、地に付きそうな程に長い髪。透き通りそうな肌に華奢な身体の女性が立っていた。
その姿に、再び生唾を飲む。
神秘的、すぎて。
「……驚かせてしまったようだな」
端正な顔立ちをしたその女性は、申し訳無さそうに顔を歪めた。そんな表情でもやはり、美しくて。
「それより、どういう事なのでしょうか?」
メルヴィル、私がメルと呼ぶ彼は不可解そうに尋ねた。彼はいつだって冷静な男だ。黒い瞳が笑みを浮かべる。
「見ればわかるだろう。……水は澄んで清らかな川だ。しかし、そこに生物は居らぬ。一匹…たりともな」
女性は目を伏せ切な気な表情を見せる。
「村の封鎖にも少なからず影響している。宿に困っているなら、ここを少し登った所に祠がある。そこを使うと良い……」
そう言って彼女は村の方角へ歩き始めた。ふわり、と蒼銀の髪が靡く。
「待って!あなたのお名前は……」
「……いずれ判るだろう」
そのまま立ち去って行った。
何とも、不可解としか言い様のない女性だった。
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