……四の姫の企み

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「源氏物語って知ってるか?」 ぽけーっと牛車から景色を眺めていると、唐突に聞かれる 「あー…あれですよね?宮中一の才女って言われてる女房が書いた絵巻物! 一応は知ってますけど…」 「読んだ事は?」 「話題作だからまぁ、一応」 「六条御息所の章は覚えてるか?」 「…確か生き霊になってまで妄執する怖い人、…でしたっけ?」 六条御息所とは、故・前東宮妃で物語の主人公であるプレイボーイ光源氏の恋人の一人として登場する。 人一倍プライドが高く嫉妬深い女性で、源氏の恋人や正妻を生き霊となって殺してしまう哀れで恐ろしい人という設定だった。 「まぁあれは作り物の嘘の物語なんだが、そっくりな性質の人がいてな…。 それがこの間、芝居しに行った三条の四の姫なんだ」 「…それって朝霧更衣(こうい・帝の側室)の妹姫の事ですか?……うわぁ…」 それは三日程前に遡る。 これで最後だからと一雅に連れられ、恋人のふりをするために訪れた邸での事。 そこの女主人である四の姫は、気位が高く一緒にいて気後れするほど緊張を覚える人だった。 器量は美しいのだか、それがかえって冷たさを際立たせていて… 葉は、御簾ごしではあったが強い嫌悪感をぶつけられ、石になりそうな程睨みつけられ、寿命が縮まる思いをしたのだった。
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