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「お尋ねします」
人が泣いているのに、のんきな声でそいつは来た。
なんとなく見覚えのある帽子とかばん。きれいに切りそろえられた髭。困ったように微笑む優しそうな瞳が、長い前髪の影から覗いている。
「この当たりで、ついさっき涙の落ちる音が聞こえた気がしたんですよ。駆けつけてみたんだけど、誰の涙か知りませんか?」
彼はへらりと笑って話す。
……何のことなんだろう。全くわけが分からない。
「……へ? 涙の落ちる、音?」
ちょっと不審に思い、尋ね返す。聞こえるはずがない音を聞いてきたという。今流行の不審者というやつだろうか。
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