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大きく、黒く……そして暗い。
此処はそんな場所だった。
人の足では到底横断できないほど広い場所。
人の視野ではその規模など判るはずも無かったが、彼は知っていた。
というより、生きる為には知らなければならなかった。
ここは敵国領……広大な森の中だ。
「はあっ……はあっ……」
上体を伏せた姿勢で、速く、静かに。
彼はただひたすらに走っていた。
すでに呼吸は上がりきっており、どれほどの時間走り続けていたのか、本人でさえ定かではない。
更にこれも漠然としたことだが、森の中心から数キロの場所を南下しているはずだった。
彼は顎に伝った汗を手の甲で拭いながら、ふと上を見やる。
歩調に合わせて、闇に染まって黒々とした木々が後ろに流れてゆく。
それらの隙間から、まるで宝石をちりばめたような星々が覗いていた。
張り詰めた神経の中、できれば立ち止まって眺め続けていたい衝動にも駆られるが、流石にそれは出来なかった。
追手の危険もあったからだ。
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