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その彼……成人を迎えて間もない青年は、上から下まで体に密着した黒の服を着込んでいた。
戦闘用に仕立てられたそれは、胸や肩といった急所に強化合金で作られた軽量な装甲が仕込まれている。
とはいっても、その戦闘服もすでにボロボロで、所々が切り裂かれていた。
激しい戦闘の末にこうなったのだ。
既に時刻は深夜を過ぎてかなり経っている。
常人ならば歩くことすら躊躇うような夜闇ではあったが、青年は生い茂る木々の隙間を縫うようにして走り続けた。
地を這うようにして横たわる大きな木の根を跳び越し、そして着地。
腰の後ろに固定されている長剣が、衝撃でカチャリと音を立てた。
「はあっ……はあっ……」
静まり返った森の中に、自分の荒い呼吸音と、小さく抑えた足音だけが響く。
そして流れる景色の中、ふと視界の端に大きな岩が現れた。
何の変哲もない只の石の塊だが、青年にとってはようやく見つけた避難所だ。
青年は意を決すると、その影に飛び込むようにして身を潜めた。
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