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「はあっ……はあっ……はあっ……」
既に髪の先までぐっしょり濡れていた。
青年は額から噴き出す汗を血と一緒に拭って、呼吸を整える。
息がようやく落ち着いて来た頃だった。
森には似つかわしくない爆発音が大気を震わせ、青年は岩の陰からそちらに視線をやる。
遥か先……彼の走ってきた方向の空がうっすらと赤く色づいており、白い煙がゆらゆらと立ち昇っていた。
おそらく木なのだろうが、何かが燃えているようだった。
彼はそれを確認程度に見やると、安堵の吐息と共に地面に尻を落とし、岩に体重を預ける。
もたれた岩の冷たさが心地よく熱を奪っていくのを感じていた、そのときだった。
不意に死角になっていた茂みが、夜風とは違う何かに音を立てた。
「ちっ!」
完全に油断していた青年は慌てて身を起こすと、腰の長剣に手をかける。
鞘から外そうと右手に力を込めるが……
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