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「うるせー。気ぃ遣ってやって損した」
「あはは、ごめんごめん」
「もう次入れてやんねーかんな!」
そう言うと、涼はいたずらっぽく舌を出して、笑って見せた。
彼は私より20㎝くらい背が高くて、左耳にピアスの穴をあけてる。
派手っぽくて、よく目立つせいか、先生に怒られてるとこをよく見かける。
「春なのに、なんか寒ぃな」
「だね。かなり」
4月の雨は思ってるよりまだちょっと冷たい。でも、ひと雨ごとに夏がくるんだと思う。
「あのさー里香子」
珍しく涼の声が小さく聞こえる。雨のせいかもしれない。
「どした?」
右隣の涼を仰いでみると、彼はそっぽを向いている。
「里香子さー、好きな…」
その時、ププッとクラクションの音が聞こえた。振り返えると、車の中からこっちに向かって手を振る人がいる。
見覚えのあるその顔は……かずにぃだ!
「だからさ、里香子は好きな……」
「傘、入れてくれてありがと! 家族が迎えに来たから、私、行くね」
涼の話をあまり聞かないまま、私は4月の雨の中に飛び出して行った。
涼はその雨の中、颯爽と駆け抜けた里香子の後ろ姿をぼんやり眺めて、さっきの続きを一人ごちる。
「……好きなやつとかいんのかよ、里香子……」
涼の声は届かないまま、私はかずにぃの車の助手席にすべりこんだ。
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