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涼はいつも私に話かけてくる。でも、私はそれを無視し続ける。
千尋の事を悪く言ったのは今でも嫌だけど、でももうあの時ほど、怒っているわけじゃなかった。
千尋に謝ったって言う話も千尋から聞いたし、根っから嫌なヤツじゃないって事も分かった。
たぶん……。
なんでもいいんだと思う。
私が涼をはぐらかす口実が欲しかっただけ。
涼が私の事をあきらめるように仕向けたかっただけ。
……そんな気がする。
放課後、先生に頼まれた資料作りの手伝いを終わらせて、里香子は人気のない廊下を歩いている。
頼みやすいのか、担任は里香子にばかり手伝いを言い付ける。
里香子もそれを意味もなく愛想のいい笑顔で引き受けるので、『できた生徒』のレッテルを貼られたみたいだ。
教室に戻ってくると、自分のカバンだけ、ぽつんと残されていて、なんだか少し寂しかった。
カバンをつかんで帰ろうとすると、涼が教室の前方にある出入口のところに立っていた。
「なんで……」
なんで涼がまだ学校に残ってるの!?
部活もしてない人なのに……。
もう6時を大きく過ぎてると言うのに……。
みんな、とっくに帰ってるのに……。
里香子が後ろの出入口から出ようとすると、涼は、ツカツカと里香子の前に立ちはだかった。
「里香子、話をさせてくれないか?」
里香子が前の出入口を目指そうと体をひねった時、涼は里香子の右手を思い切り掴んだ。
「里香子……」
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