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夕方の赤い光が差し込む薄暗い教室で、里香子は思い切り腕を振った。
「離して」
どんなに強く振っても、涼の手がほどけない。
こんなに力が強いなんて……。
里香子が、振りほどこうとすると、余計に涼は力を入れた。
「痛っ」
里香子の声に反応してか、掴んでいる左手の力が緩んだ。
振りほどき、左手で掴まれていた右手をさする。涼の手の形がくっきりと浮かんでいた。
「里香子……」
私の目の前にいるのは、本当にあの涼なの?
恐い……恐い……。
「里香子、話を……」
差し出された涼の左手から逃げるように、里香子は大きく後退りをした。
体が机に当たり、大きな音を立てる。
名前を呼びながら、涼は里香子へと一歩ずつ近づく。
怯えた目を涼に向けながら、距離を離そうとまた里香子は後ろに下がった。
こつん……と、ひんやりとしたものが、背中に当たった。
――柱だ……。
教室の窓際の、真ん中に通っている、コンクリートの壁。
後ろは壁、右と左は机。
そして、目の前には……。
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