1.神童リヒノフスキー

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リハーサルといっても、午前中はオーケストラのメンバーはコンサートマスターだけだ。 そう。まず、マエストロ・ガルボとソリスト二人、そしてコンマスの四人で打ち合わせをする。 いや、正確には四人プラス、リヒノフスキー母だ。 今回は、ガルボがチェンバロの弾き振りをするので、ステージ中央に置かれたチェンバロ近くに僕たちも集まっているけど、リヒノフスキー母も、そのすぐ近くの客席の最前列に座っている。 彼女の僕を睨み付けるような表情からは、打ち合わせの内容を一言も聴き逃すまいとしているのが読み取れる。 しかも、やっぱりターゲットは僕なんだろうなと思うし、ちょっと怖い。 かくして、オーケストラ無しのリハーサルが始まった。 ガルボの奏でるチェンバロに、まずは1stのリヒノフスキーが主題を重ね、そして2ndの僕が後を追う。 この1stと2ndというパートも、リヒノフスキーの母が有無を言わせずに決めてしまった。 こちらも強く言えばどうにかなったのだろうが、元G社社員のルドの元に、彼の元同僚から、「リヒノフスキー母には手を焼いてる。何とか穏便に。」と泣きつきメールが来たので、セカンドでもまぁ良いかと了承した。 いや、ルドも相当頑固な性格なので、大事な場面では決して妥協しない。 ただ、このダブルコンチェルトは、どちらのパートも同じくらいに存在感があるから、ルドは本当にどちらでも良かったのだろうし、僕も同じ考えだ。 それにしても、リヒノフスキーは上手い。 午後からはオケ合わせがあるので、力は抜いているけど、それでも客観性と自我とのバランスがとても良い。 相当練習してきているのだろう。 ガルボも淡々とチェンバロを弾き続けて何も言わないし、このまま順調にリハーサルは進みそうだ。 と思っていたら、一楽章が終わった時に、リヒノフスキー母から意見が出た。
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