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「ブラッキンさん、最初のテーマの二拍目の音にビブラートは必要ないんじゃありませんか?」
「え?」
顔は笑っているけど、かなり苛ついた雰囲気のリヒノフスキー母の様子に、自分はビブラートをかけてるつもりはなく響かせてるだけだ、なんて事はとても言い返せなかった。
「バッハなので、ロマン派の作品のように演奏しない方が良いのでは?」
「お母さんっ!」
僕に詰め寄る母を、意外にもリヒノフスキーが制し、そして言う。
「マエストロ、冒頭部分だけもう一度お願いします」
ガルボは少し考えていたけど、「うむ。」と頷くと、もう一度チェンバロを奏で始める。
そしてリヒノフスキーが再びテーマを奏した。
あれ?二拍目の頭を僕と同じように響かせた。あれ?僕の真似?
フレーズが進んだ所で、リヒノフスキーがガルボと僕に、「これでお願いします。」と言う。
ガルボは「OK」と頷き、「では二楽章。」と言った。
僕は、怖くてリヒノフスキー母の顔を見ることができなかった。
彼女は息子があっけなく僕に譲歩したことをどう思ってるんだろう。
いや、そんなの考えるまでもなく面白いはずがない。
それに、リヒノフスキーがこんなに素直な奴だとは思ってもいなかった。
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