1.神童リヒノフスキー

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二楽章が始まった。 ヘ長調、8分の12拍子。ゆったりとした牧歌風なこの曲は天使を想像させる。 まずは僕がテーマを奏する。 三小節目に差し掛かり、リヒノフスキーが同じテーマを奏でようと弓を当てた瞬間、リヒノフスキー母がストップをかけた。 「ブラッキンさん、二小節目、テーマ終わりの16分音符をそんなに揺らさなくてもよろしくてよ。」 テンポは揺らしていない。音色をそれぞれ変えただけだ。 「テンポは変わってないですよ、マドモアゼル。」 今度はマエストロが微笑んで言った。 「午後からオケ合わせもあるので、午前中はサラリといこうと思ってます。意見はランチの時に聞きましょう。」 リヒノフスキー母はガルボの言葉に納得した。さすがの猛母も世界的な指揮者の言葉は聞くのだ。 彼女は口を閉ざし、3人だけのリハーサルはすぐに終わった。 そして、彼女の待望のランチの時間がやってきたけど、結局彼女はマエストロに意見を言うことができなかった。 何故なら、ランチの時間はガルボはリヒノフスキー本人につきっきりだったからだ。 彼がガルボにレッスンを頼んだのだ。 二人はガルボの楽屋にこもり、彼女はおろか、僕も入室を拒否された。
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