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二楽章が始まった。
ヘ長調、8分の12拍子。ゆったりとした牧歌風なこの曲は天使を想像させる。
まずは僕がテーマを奏する。
三小節目に差し掛かり、リヒノフスキーが同じテーマを奏でようと弓を当てた瞬間、リヒノフスキー母がストップをかけた。
「ブラッキンさん、二小節目、テーマ終わりの16分音符をそんなに揺らさなくてもよろしくてよ。」
テンポは揺らしていない。音色をそれぞれ変えただけだ。
「テンポは変わってないですよ、マドモアゼル。」
今度はマエストロが微笑んで言った。
「午後からオケ合わせもあるので、午前中はサラリといこうと思ってます。意見はランチの時に聞きましょう。」
リヒノフスキー母はガルボの言葉に納得した。さすがの猛母も世界的な指揮者の言葉は聞くのだ。
彼女は口を閉ざし、3人だけのリハーサルはすぐに終わった。
そして、彼女の待望のランチの時間がやってきたけど、結局彼女はマエストロに意見を言うことができなかった。
何故なら、ランチの時間はガルボはリヒノフスキー本人につきっきりだったからだ。
彼がガルボにレッスンを頼んだのだ。
二人はガルボの楽屋にこもり、彼女はおろか、僕も入室を拒否された。
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