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午後からは、オーケストラのメンバーも加わっての本格的なリハーサルに入る。
スタッフの準備の邪魔にならないようにステージの端で音出しをしていたら、リヒノフスキーが隣にやって来て、彼も音出しを始めた。
「ん?」とヴァイオリンを顎に挟んだまま弓を下ろして彼を見たけど、彼は「邪魔しませんから好きに続けてください。」と言ってヴァイオリンを構える。
気にしないでと言われても気になってしまうが、時間が迫っているので音を出す。
僕の音にリヒノフスキーが音を重ねてくる。スーッと細い音を伸ばす横から、彼も同じ音を奏でてくる。次の音も、その次の音も付いてくる。
女性的な僕のストラッドと男性的な彼のグアルネッリが絡み合って、まるで恋人たちのようだ。
周囲は物音ひとつしなくなった。
ただ僕たちの音がまるで異世界にいるかのように響きあう。
リヒノフスキーは小憎たらしいが、可愛らしい奴だ。僕は美しいアンサンブルに嬉しくなり、伸びやかな音を響かせた。
全ての弦を鳴らし終えてストラッド『女王』を下ろすと、リヒノフスキーも紅潮した顔で楽器を下ろした。
それを見計らったかのように辺りがざわめき始め、マエストロ・ガルボがチェンバロの前に現れる。
「それじゃあ、始めようか。」
彼はワクワクとした表情で僕たちにウィンクした。
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