生きる

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有名な一品料理に酢豚というのがあった。その酢豚から酢が欠けたらどうなるのかを考えたことは誰にでも一度や二度はあるだろう。 しかし、なかなかその答えにたどり着くのは難しいものだ。 そう、答えは豚だ。 「酢豚の酢抜き下さい」は「豚下さい」を意味し、常軌を逸したと判別されるまでにそう時間はかからないかもしれない。 必然的に酢は孤独に苛まれた豚の悲しみや寂しさを察し、酢豚となり野菜たちの喝采とともに、ストマックレボリューションで脳髄を席巻した。   今宵、あれほど人類が愛して止まなかったゼニカネを費やしてきた核兵器をも薙ぎ倒すまでになった酢が酢でなくなってしまった?気安く酢などと呼べなくなってしまった? なぁにご心配はない。これらも勝手気ままな人類が思いついた配慮なる曖昧な行為だという。そんな地球人はもういつぞやの朱鷺のように絶滅種となり、お気軽に酢豚を食えた時代はいまや誠にセンセーショナルな事象となるのであった。 呆気なかったのは、ちいさなころから罪なき虫を踏み潰してきたことも忘れ、命の尊さは声高に叫んだわりに地球全体のポリシーにできぬままの人類。 ぼくらはみんないきている最初の脱落生物のレクイエムは流れない。
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